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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)5204号 判決 1958年5月06日

事実

原告日本観光施設株式会社は請求原因として、訴外福田清太郎は昭和三十年九月二十九日被告に宛てて金額二十万円の約束手形一通を振り出したが、被告は右手形を訴外伊藤俊夫に対して白地裏書し、右伊藤は原告にこれを白地裏書した。そこで原告は現に本件手形を所持しているものであるが、満期日にこれを支払場所に呈示して支払を求めたが拒絶されたので、原告は本件手形の裏書人である被告に対し手形金二十万円及びこれに対する法定利息の支払を求めると述べた。

これに対して被告は、被告が本件手形を白地裏書により訴外伊藤俊夫に譲渡したのは、取立委任のためにしたものである。すなわち右白地裏書は、隠れた取立委任裏書であり、原告はそのことを知りながら訴外伊藤俊夫から本件手形を白地裏書により取得したものであるから、原告は被告に対し本件手形について遡及権を行使することはできないといわなければならないと抗争した。

理由

証拠を綜合すると、本件手形が訴外福田清太郎から被告に宛てて振り出されたいきさつは次のとおりであることが認められる。

すなわち、原告は、訴外西武鉄道株式会社からその所有にかかる土地約二千八百坪を買い受けることになつていたところ、その代金の支払等のために、右土地の所有権取得前に右土地を担保として金融を図ることについて右会社の了解を得ていたのであるが、原告会社の相談役をしていた訴外山田某の友人に当る被告武島一義が大口金融の斡旋をするということを聞き、昭和二十九年春頃原告会社の代表取締役伊藤俊夫は被告を訪問して、右土地を担保として金三億円程の金融の斡旋を依頼した。被告は、この依頼を受けたことをその学友である訴外岡野文之助に告げたところ、同人の知合である訴外竹村庄平及び福田清太郎が訴外株式会社神戸銀行東京支店の首脳部と特別懇意な関係を持つているから、右両名に尽力させてみてはどうかということであつたので、右両名を原告会社の代表者伊藤俊夫に紹介し、何回か会談させた結果、原告が金三億円の為替手形を振り出した上、前記土地を担保とすることにより右為替手形の引受人のために訴外神戸銀行東京支店に保証をさせるように訴外竹村庄平及び福田清太郎が運動し、その為替手形を割り引くことによつて原告に金融を得させようということになつたのであるが、右の運動のためには金二十万円の費用が必要であるというので、原告においてこれを支出することとした。かくして昭和三十年九月二十九日被告の事務所において被告も立会の上金二十万円の運動費が訴外竹村庄平及び福田清太郎に渡されたのであるが、その際もし運動が成功しなかつた場合には、どうするのかと原告が質したところ、右両名はもちろん運動費として受け取つた金二十万円を原告に返還すると答えた。そこで原告は右両名に対し約束手形の振出を要求したところ、同人等は面識の浅い原告に対して約束手形を振り出すわけには行かないが、被告に宛ててならば振り出してもよいというので、原告側でもそれを了承し、かくして訴外福田清太郎から被告宛に本件手形が振り出されたほか、訴外福田清太郎及び竹村庄平の連名で被告宛に金二十万円の預り証が発行され、被告が本件手形及び右預り証を一時保管していた。

以上のとおり認められるのであつて、これら認定の事実からすると、被告が訴外福田清太郎から本件手形の振出を受け、かつまた同人及び訴外竹村庄平両名の連名になる前記預り証が被告宛に作成され、本件手形に、被告が白地裏書をしたことからして、被告が原告から支出された前述の金二十万円の運動費につき自ら原告に対し返還債務を負担したものとは到底解されない。従つて本件手形に被告が白地裏書をしたのは、単に原告が自らこれを呈示してその支払を受けるためにしたものとみるのが相当であり、そのことは、原告会社の代表者である伊藤俊夫個人の白地裏書を経て本件手形を取得した原告日本観光施設株式会社においても知悉していたものと認めるべきである。

してみると原告は、被告に対して遡及権を行使して本件手形の支払を請求することは許されないものというべきであるとして、原告の請求はこれを棄却した。

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